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■挑戦者たち 【お湯にほれた元銀行員】 【上毛新聞】 2004年4月29日

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まるほん旅館専務 福田 智さん
一軒の宿屋の風呂が運命を変えた。「入った途端、背中に電気が走った」という。古き良き時代の湯治場の風情が残る沢渡温泉。銀行員から宿屋の主人へ転身し た背景には、温泉通をもうならせる老舗の雰囲気とお湯があった。もともとアウトドア志向。
釣りや写真を楽しみながら各地の温泉を巡ることが好きだった。二年前、四万、沢渡を抱える群馬銀行中之条支店に転勤。温泉旅館の営業担当となり、「情熱的 な若手経営者に大いに刺激を受けた」。そんな中で、江戸時代から続き、沢渡温泉を代表する「まるほん旅館」が後継者不足から営業をやめるという話を聞い た。「もったいない」。昨夏から営業継続に向け受け皿を探し始めた。しかし、源泉をめぐる権利関係の問題で、相続以外の方法で経営を第三者に譲ることは不 可能という条件がついた。「何とかできないか」。思い悩んだ末、勲一社長に直訴した。「私にやらせてください」-。当初は、冗談として受け止めていた社長 も熱意にほだされ、最後には了承。
養子縁組した上で、二月から旅館経営をバトンタッチした。「温泉は一つの文化。妻を説得するのには苦労したが、思いを貫いた。心配した上司や同僚、後輩た ちも最後には快く送り出してくれ、今はお客さんも紹介してくれる。本当にありがたい」 一見、正反対のような“業種転換”だが、営業で外回りをしていた経 験から接客業への抵抗はない。だが、文字通り朝から晩まで気を遣い、年中無休という勤務形態は、サラリーマン時代とは異なる疲労感もある。「お湯にほれ て、社長の人柄、経営方針にほれて・・・。華美な旅館でもないし。手を入れたくなる所もあるが、この雰囲気を気に入って通ってくれるお客さんが大勢いる。 これまで通り清潔感にこだわった、基本に忠実な『宿屋』でいられれば」 温泉地に根を下ろした元銀行員は、静かなスタートを切った。

プロフィール

ふくだ(旧姓たなか)・さとし 渋川高校、法政大学法学部卒。1991年群馬銀行入行後、渋川、新里、宇都宮各支店を経て2002年に中之条支店に。今年1月末で退職し旅館業へ。趣味は釣り、写真。中之条町。37歳。